2015-01-01から1年間の記事一覧

なぜトァンはミァハを撃ったのか ‐ 『ハーモニー』試論 ‐

『ハーモニー』で全人類のハーモニクスが達成される直前に、なぜトァンはミァハを殺害したのだろうか。ハーモニクスを間近にひかえた状況で行動の意味は乏しく、また、ハーモニクスが達成されれば個人そのものが無化される。本稿では、『ハーモニー』全体を…

劇場版『ハーモニー』レビュー

(本稿は劇場版『ハーモニー』を鑑賞した筆者が、映画としては最悪、百合としては最高という二心に分裂した苦悩を反映してふたりの女子高生が対話する形式で書かれています。何卒ご了承ください) ふたりの女子高生が映画館で集合した。劇場版『ハーモニー』…

『いたいけな主人』論 アリストテレス『詩学』から笠野頼子まで

前回、『いたいけな主人』(中里十著、小学館、2009年)がメタフィクションの構造をとっていることを確認した。今回は、なぜ本作がメタフィクションの構造をとっているか考察し、あわせて光の行動を読みときたい。 まず、光が陸子と別れるまでの行動を確認す…

『いたいけな主人』の最終章の誤読を解く

"「ホメロスの時代には、ギリシアはどん底から抜け出したばかりだったの。紀元前一二〇〇年くらいまでギリシアには、ミケーネ文明っていう文明があった。戦争でこの文明が滅びて、ギリシアは貧しく野蛮になった。ホメロスのころには、貧しくなる前のギリシア…

『ユリ熊嵐』全話読解、エーリッヒ・フロム『愛するということ』から

『ユリ熊嵐』(幾原邦彦監督、SILVER LINK制作、2015年)は愛をめぐる物語だ。それは各話の冒頭で「わたしたちは最初からあなたたちが大好きで、あなたたちが大嫌いだった。だから、本当の友達になりたかった。あの壁をこえて」というモノローグが読まれるこ…

『ファンタジスタドール・イヴ』と『未来のイヴ』の対照および『ファンタジスタドール』再論

野崎まど著『ファンタジスタドール・イヴ』(早川書房、2013年)はアニメ『ファンタジスタドール』(斎藤久監督、フッズエンタテインメント制作、2013年)の前日譚だ。内容は女性に幻滅した科学者が、それでも女性を欲し、志を同じくする友人とともに人造の…

『君が僕を』と論理実証主義

中里十著『君が僕を』全4巻(小学館、2009-2010年)のテーマはコミュニケーションの不可能性だ。舞台装置の「恵まれさん」は金銭という概念上の存在を具体化する役割を負っている(『君が僕を3』p.140)。金銭の使用、すなわち交換が生じるのは両者のあい…