文学

『まんがの作り方』は孤独に耐えること - ルカーチ『小説の理論』から -

"「上流社会」の調子――すなわち因習的な幻想や非真理がもっているところの無関心で無感動な調子――がとりも直さず現代の支配的な通常の調子である。現代では多分単に本来政治的である要件(これは自明なことである)ばかりでなく、宗教上の要件および学問上の…

『青い花』の表現技法とその意味

"『青みをおびた』(Bleute):ほかのどんな色も、優しさの、このような言語的形態を知らない。ノヴァーリス風の言葉。「非存在のように優しく青みをおびた死」(『笑いと忘却の書』)。"(ミラン・クンデラ著『小説の精神』所収『七十三語』浅野敏夫訳) 『…

『荊の城』と『オリバー・ツイスト』

独白をのぞき、『荊の城』は『オリバー・ツイスト』の観劇の場面ではじまる。本作はロンドンの下町を舞台にしており、主人公のスウは"Fingersimith"=スリであり、『オリバー・ツイスト』でオリバーが仲間にいれられる窃盗団の少年たちとおなじだ。付言すれば…

なぜトァンはミァハを撃ったのか ‐ 『ハーモニー』試論 ‐

『ハーモニー』で全人類のハーモニクスが達成される直前に、なぜトァンはミァハを殺害したのだろうか。ハーモニクスを間近にひかえた状況で行動の意味は乏しく、また、ハーモニクスが達成されれば個人そのものが無化される。本稿では、『ハーモニー』全体を…

『いたいけな主人』論 アリストテレス『詩学』から笠野頼子まで

前回、『いたいけな主人』(中里十著、小学館、2009年)がメタフィクションの構造をとっていることを確認した。今回は、なぜ本作がメタフィクションの構造をとっているか考察し、あわせて光の行動を読みときたい。 まず、光が陸子と別れるまでの行動を確認す…

『いたいけな主人』の最終章の誤読を解く

"「ホメロスの時代には、ギリシアはどん底から抜け出したばかりだったの。紀元前一二〇〇年くらいまでギリシアには、ミケーネ文明っていう文明があった。戦争でこの文明が滅びて、ギリシアは貧しく野蛮になった。ホメロスのころには、貧しくなる前のギリシア…

『君が僕を』と論理実証主義

中里十著『君が僕を』全4巻(小学館、2009-2010年)のテーマはコミュニケーションの不可能性だ。舞台装置の「恵まれさん」は金銭という概念上の存在を具体化する役割を負っている(『君が僕を3』p.140)。金銭の使用、すなわち交換が生じるのは両者のあい…