『ONE ~輝く季節へ~』読解 - 「えいえん」とは何か -

本稿では1998年、keyの前身であるTacticsが発売した『ONE~輝く季節へ~』を里村茜ルートを中心に読解する。本作では《えいえん》という異世界が主要な道具立てになっている。《えいえん》が筋書きに大きく関わるのは茜ルートのみであり、そのため、…

『さらざんまい』読解 - 欲望機械、円環、永劫回帰 -

本稿では『さらざんまい 』(幾原邦彦監督、MAPPA、ラパントラック制作、2019年)の読解をおこなう。概要としては、まず本作の世界観を確認したのち、同時代性を踏まえ、その問題意識を特定する。そして物語によるその解答を分析する。また、本作はメッセー…

『淡島百景』 - どこにも繋がらない人びとの肖像 -

"「そうだとも。あんたは彼を自分のために愛していて、彼のために愛しているのじゃない。あんたを魅する現世的な快楽のためであって、彼に寄せる愛のためじゃない。あんたがそういう風に彼をわがものとしたということは、神の手でもっとも崇むべき完璧の刻印…

『リップヴァンウィンクルの花嫁』 - 『生産の鏡』から -

"「あと、いまからはなすことですけど」「はい」「『友だちがほしい』。それが、クライアントの、依頼です」「『友だちがほしい』… それが、わたしの仕事なんですか?」"(岩井俊二監督『リップヴァンウィンクルの花嫁』) 岩井俊二監督『リップヴァンウィン…

『まんがの作り方』は孤独に耐えること - ルカーチ『小説の理論』から -

"「上流社会」の調子――すなわち因習的な幻想や非真理がもっているところの無関心で無感動な調子――がとりも直さず現代の支配的な通常の調子である。現代では多分単に本来政治的である要件(これは自明なことである)ばかりでなく、宗教上の要件および学問上の…

『あの教室』MV - 教室で『箱男』になるということ -

寡聞にして乃木坂46のMVをあまりみたことがなく、しかし『あの教室』につよい印象をうけた。以下、そのプロットを読解し、その仮説から映像表現の意味を探る。さらにそののち、じっさいのコードと歌詞、映像と対照する。 プロットは次のようなものだ。齋藤飛…

『ゲーデル、エッシャー、バッハ』あるいは『みすてぃっく・あい』

"「この手紙を発見する前は、一冊の本がどうして無限であり得るのか、疑問に思っていました。循環する、円環的な本いがいのあり方を思いつかなかったのです。最後のページが最初のページと同一で、限りなく接続する可能性を持った本です。わたしはまた、『千…

『青い花』の表現技法とその意味

"『青みをおびた』(Bleute):ほかのどんな色も、優しさの、このような言語的形態を知らない。ノヴァーリス風の言葉。「非存在のように優しく青みをおびた死」(『笑いと忘却の書』)。"(ミラン・クンデラ著『小説の精神』所収『七十三語』浅野敏夫訳) 『…

『荊の城』と『オリバー・ツイスト』

独白をのぞき、『荊の城』は『オリバー・ツイスト』の観劇の場面ではじまる。本作はロンドンの下町を舞台にしており、主人公のスウは"Fingersimith"=スリであり、『オリバー・ツイスト』でオリバーが仲間にいれられる窃盗団の少年たちとおなじだ。付言すれば…

『ハーモニー』補論

SF

伊藤計劃著『虐殺器官』に"戦闘前に行われるカウンセリングと脳医学的処置によって、ぼくらは自分の感情や倫理を戦闘用にコンフィグする。そうすることでぼくたちは、任務と自分の倫理を器用に切り離すことができる。オーウェルなら二重思考(ダブルシンク)…

なぜトァンはミァハを撃ったのか ‐ 『ハーモニー』試論 ‐

『ハーモニー』で全人類のハーモニクスが達成される直前に、なぜトァンはミァハを殺害したのだろうか。ハーモニクスを間近にひかえた状況で行動の意味は乏しく、また、ハーモニクスが達成されれば個人そのものが無化される。本稿では、『ハーモニー』全体を…

劇場版『ハーモニー』レビュー

(本稿は劇場版『ハーモニー』を鑑賞した筆者が、映画としては最悪、百合としては最高という二心に分裂した苦悩を反映してふたりの女子高生が対話する形式で書かれています。何卒ご了承ください) ふたりの女子高生が映画館で集合した。劇場版『ハーモニー』…

『いたいけな主人』論 アリストテレス『詩学』から笠野頼子まで

前回、『いたいけな主人』(中里十著、小学館、2009年)がメタフィクションの構造をとっていることを確認した。今回は、なぜ本作がメタフィクションの構造をとっているか考察し、あわせて光の行動を読みときたい。 まず、光が陸子と別れるまでの行動を確認す…

『いたいけな主人』の最終章の誤読を解く

"「ホメロスの時代には、ギリシアはどん底から抜け出したばかりだったの。紀元前一二〇〇年くらいまでギリシアには、ミケーネ文明っていう文明があった。戦争でこの文明が滅びて、ギリシアは貧しく野蛮になった。ホメロスのころには、貧しくなる前のギリシア…

『ユリ熊嵐』全話読解、エーリッヒ・フロム『愛するということ』から

『ユリ熊嵐』(幾原邦彦監督、SILVER LINK制作、2015年)は愛をめぐる物語だ。それは各話の冒頭で「わたしたちは最初からあなたたちが大好きで、あなたたちが大嫌いだった。だから、本当の友達になりたかった。あの壁をこえて」というモノローグが読まれるこ…

『ファンタジスタドール・イヴ』と『未来のイヴ』の対照および『ファンタジスタドール』再論

野崎まど著『ファンタジスタドール・イヴ』(早川書房、2013年)はアニメ『ファンタジスタドール』(斎藤久監督、フッズエンタテインメント制作、2013年)の前日譚だ。内容は女性に幻滅した科学者が、それでも女性を欲し、志を同じくする友人とともに人造の…

『君が僕を』と論理実証主義

中里十著『君が僕を』全4巻(小学館、2009-2010年)のテーマはコミュニケーションの不可能性だ。舞台装置の「恵まれさん」は金銭という概念上の存在を具体化する役割を負っている(『君が僕を3』p.140)。金銭の使用、すなわち交換が生じるのは両者のあい…